観劇メモ「兎、波を走る」

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こんにちは、つたちこです。
NODA・MAP「兎、波を走る」を観てきました。

久しぶりの生のNODA・MAP!
チケットが取れて嬉しかったです。
1階割とセンター気味の真ん中らへん、さらに前の席が欠席(もったいない!)という非常に見やすい席でした。

多部未華子ちゃんが出る、というのもとても嬉しいポイント(好きです)。

写真:博多座「兎、波を走る」ポスター

野田曰く、物語の設定は、「“潰れかかった遊園地”を舞台に繰り広げられる “劇中劇(ショー)”のようなもの」だという。そして、そこに“アリス”が登場するというのだ。
それはウサギ(兎)を追いかけて不思議の国へと迷い込んだ、あのアリスなのか? しかも、その上、或る“世界的な稀代の劇作家”まがいの人間までもが2人絡んでくるらしい。“世界的な稀代の劇作家”と言えば、野田が自ら強烈なインパクトのフェイクスピア/シェイクスピアを演じた『フェイクスピア』(21年)も記憶に新しいが、本作ではどんな劇作家がどのような役割を担うのか?
古今東西のファクターが複雑に絡み合い、謎が謎を呼ぶ様相を呈する物語の全貌とは……!?

INTRODUCTION | 兎、波を走る | NODA・MAP 第26回公演より

【ネタバレあり】理不尽さに放り込まれた人たちの物語

東京・大阪・博多と順番に公演してて、すでに初演から2ヶ月以上たちます。
が、公式情報以外は一切見ずに観劇しました。
NODA・MAPの激しい情報量からじわじわ主題に向かっていくところの醍醐味を味わうには「無」でいくのがいい。

今回も怒涛のセリフの応酬、情報量の多さに圧倒されつつ、じわじわと主題に近づいていくほどに鳥肌の立つような気持ちになりました。

とてもじゃないけど全部は把握しきれないし、理解しにくい部分も多々あって意味がわからない、理解できてないところも多いです。

北朝鮮拉致問題という今現在進行系の政治問題を主題にするって、かなり勇気のいる行為なのではないかと思いました。
(劇中で「北朝鮮」とは一言も言ってないです。が、そうとしか受け止められない表現が多数ありました)
と同時に、私の中で拉致問題はニュースの中の出来事であり、全然リアリティを持って受け止めてなかったことを痛感しました。

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劇中、多部未華子演じるアリスが学校帰りに拉致されるシーンがあります。
無防備な普通の中学生。
ちらりと目の端に兎(工作員)が映ったかもしれなかっただけ。
ついさっきまで日常の中にいたのに、あっという間に袋に入れられ、連れ去られます。

袋が通り過ぎるだけで、存在が消えてしまう。この演出が何度もありましたが、ここで恐怖に変わりました。

拉致され、暗い船の底で「お母さん」と何度も何度も叫ぶアリス。
「お母さん」しかセリフがないのに、その声色でどんどん絶望していく感じが伝わるのです。
「拉致は日常に突然起こり、巻き込まれるのになんの理由もない理不尽さ」が胸に迫る。

あの、ニュースで見る人たちは何もしていないのに、こんな理不尽な暴力にいきなりさらされたのか。

最後に、ようやくアリスとお母さんと再会して抱きしめられた、と思ったら、それも幻だった。残酷な現実。

何年も全然進展しないにも関わらず関係者の高齢化もありどんどんメディア露出も少なくなってくる拉致問題。
実際、私も拉致問題について深く考えることはほとんどなかった。
現在進行形なのに解決していないのに、忘れ去られようとする事件に警鐘を鳴らしたかったのかも。

その他私のひっかかったキーワード

チェーホフ「桜の園」

私は原作も演劇もみたことないのですが、吉田秋生「櫻の園」を読んでたので、劇中の台詞が一部理解できました。
昔の少女漫画はいろんな教養をくれてありがたい。

不思議の国のアリス・ピーターパン・ピノキオ

子供(主人公)目線だと冒険譚だけど、客観的に見ると、突然子供がなんらかの形で行方不明になるって話なんだな。日本だったら神隠しみたいな。
ピノキオは人形だけど子供ってことで。

AI

これは主題とは別軸かな。
過去の作家の作品を使って焼き直すAI、という点で、野田秀樹自身もいろんな作品をオマージュしていることに引っ掛けているのかな、と思いました。
今回も「不思議の国のアリス」を始めとしたいろんな作家・作品がモチーフに使われています。
あとは、AIに作家が追われる未来、みたいなところも皮肉的に表してるのかもしれません。

兎のアナグラム

うさぎをアナグラムで「USA‐GI=アメリカ兵士」としていましたが、これが全く理解できませんでした。
北朝鮮拉致問題、その工作員にアメリカ兵関係ある??
私が知らないだけかな、と、帰ってから調べてみたのですが、どうもそれっぽい答えもでてこず。
タイトルに入っているモチーフ「兎」なのだから、「USA GI」だって重要なポイントだと思うのですが……。謎のままです。

うつつの国・もう、そうするしかない国

もう、そうするしかない国=妄想するしかない国。

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①メインテーマは日本と北朝鮮がそれを表していました。
ほかに
②演劇とVR・AR。生身の人間とアバター。
③遊園地と統合型リゾート(カジノ)
の3つが「うつつ(現実)の国と妄想しかない国」として対比されていたのかな、とあとから思いました。

映像

いつもの作品に比べ、映像を使った場面がたくさんありました。
これも「うつつ(現実)」でない「妄想」を表しているのかもしれません。

生・多部未華子ちゃん

登場でまず「顔ちっちゃ!!!」って心のなかで叫んだ。
松たか子と並んでもなお小さい。
声がよく通って華奢でかわいくて、もちろん演技もグッと来るものがあり、ますます好きになりました。
青いアリスのドレスがよく似合ってました。

博多座

博多座に初めて行ったのですが、ロビーでお弁当やスイーツをばんばん売っててびっくりした。
(野田地図関係ない…)
歌舞伎とかが上演される場だから、そういう文化なのかな。
買わなかったけど、いろいろおいしそうでした。笑

写真:福岡 博多座

教養の大事さ

野田作品に限らないですが、自分の持っている知識の量で作品理解度が大きく変わるのを痛感します。
教養、と一口にいうと雑ですが、歴史・事件・時事。現代の流行りもの。そして、古典文学・芸術あたりでしょうか。
自国に起こったこと、世界に起きたこと。最近のことも過去のことも、関心を持ち続けないといかんな、と。

今回だと、文学・演劇の名作(桜の園、アリス、ピーターパン、ピノキオ、他にもいろいろありそう)。
現代史。北朝鮮拉致問題、よど号事件、あさま山荘事件、成田空港闘争。あと安明進。私はぼんやりと名前を聞いたことがあるけどなんだっけ……というレベルでした。
世界の出来事。北朝鮮という国のこと。38度の国境とか。
最近(?)のほうだと、初音ミク・AI・VR・ARなど。

ほかにもいろいろ知ってたらわかるモチーフがあると思うんです。わかりませんでしたが。
英語圏の国に行ったときに自分の英語力のなさにがっくりくるように、野田作品を見るともっといろんな教養を知っておくべき、と思います……。

というわけで、つらつらと思うままにメモしてみました。
あとは、もう一回みたい、というのが一番ですね。

いつもそうなんですが、野田秀樹作品、初回はあふれる情報でいっぱいいっぱいになってしまう。
1回見て、いったんそれを自分なりに咀嚼したあとで、もう一回みて理解を深めたい。
生舞台はもちろん別格ですが、「フェイクスピア」のときのように、配信してくれないかなあ……。
は。もしかして録画配信もひとつの「妄想の国」で、野田さん的にはうつつ(生観劇)にこだわっている、とかがあるのかなあ。
(「フェイクスピア」はコロナ禍でやむを得ずやったとか)

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この記事を書いた人

つたちこ

フリーランスのwebディレクター。基本方針は、健康的においしい食べ物とお酒を楽しむこと。できるだけご機嫌で生きていきたい。
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