【映画メモ】「怪物」

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こんにちは、つたちこです。
映画「怪物」見てきました。

前情報は「安藤サクラが出てる」くらいで、どんな映画かほぼ情報を入れずに行きました。

大きな湖のある郊外の町。
息子を愛するシングルマザー、
生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、
大事になっていく。
そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。

ABOUT THE MOVIE | 映画『怪物』 公式サイト

以下、ネタバレがあります。

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写真:「怪物」ポスター

事実と真実は違う、っていうのをこれでもかと突きつけてくる映画でした。
あと、伝聞の怖さ。

よくネットで見かける「メディアの切り取り方で、事実と違うものになる」風刺画がありますよね。

参考:ネットの画像の元ネタはどこに? ネット検索でたどり着けるか調べてみた – ライブドアニュース

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これ、メディアだけじゃなくて、人間ひとりひとりがそうなんだな。
1つの事実を色んな視点で切り取ると、善は悪に、悪は善に。

子供の喧嘩シーン、主人公の一人「依里」をいじめているのは別の子たちなのに、たまたま居合わせた主人公「湊」を見かけた先生は、湊がいじめていると思ってしまう。

別のいじめシーンでも、それを止めるために暴れる湊を、暴れているシーンだけ見かけて「乱暴な子だ」と思ってしまう先生。

映画の中で何度も同じシーンをループして色んな視点で見せるから観客には起こったことが客観的にわかるんだけど、自分がこの場にいたら見たことが真実になってしまうの、よくわかる。

あと伝わる言葉の怖さ。

湊の母(麦野早織)は子供の様子がおかしいのを見て、「先生にいじめられている」という子供の告白を聞いて、学校に告発にいく。
形式的に謝るだけの先生たちの態度がまったく理解できなしい、不安しか残らない。ますます信頼できなくなる。

一方、先生からみたら「事実と違う、いちゃもんのような理屈で怒っているモンペ」になる。「母子家庭にありがち、シングルマザーだからうるさい」みたいな思いでそのクレームを受けているから、態度にも出ちゃう。

見ている私も、最初は早織の気持ちでモヤモヤするのだけど、徐々に先生側の視点も見えてきて、さらには子供視点の事実(たぶん)も見えてきて、脱力してしまう。

大人たちはみんな、それぞれの持つ真実をもとにそれぞれが大事なものを守ろうとしている。

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物語は湊の嘘から始まるけど、早織にとっては「湊が傷つけられた」は事実だし、先生たちの態度が腹立たしいのもわかる。モンペ扱いされるのがムカつくのもわかる。自分の事実だから。

保利先生は被害者のようで、一方「死んだ猫のそばに湊がいた」証言から「湊が猫を殺した」に勝手に変換しているし、保利先生の恋人のいう「シングルマザーは面倒よね」をそのまま口に出してしまうし。(それぞれ細かい表現は違うかも)
校長先生が孫を轢いたんじゃないかという「噂」がいつの間にか保利先生の中で事実になってる。
湊が悪い子、校長が日和見、っていう彼の中の真実から、微妙な話が全部本当のことになっていくのが怖い。

湊の嘘も、依里が依里の父親から言われてる「頭に豚の脳が入ってる」みたいな言葉を自分のものとして受け止めて、それがそのまま自分が言われたものとして口に出てる。
もしかしたら、依里の言葉を自分ごととして受け止めているうちに湊の中で「自分が言われた言葉」になってしまったのかも。
(それは、湊も依里もジェンダー的な悩みを抱える共通点があったからかな)

あー、こうやって微妙なすれ違いと、勘違いや噂を自分の中で真実化することで、モンスター◯◯は生まれていくのか。
あ、「怪物」ってそういうこと?

普通の人たちがそれぞれの真実につっぱしっていく怖さにゾッとする一方、終盤の音楽を奏でるシーンも、視点の違いで見え方が全然違って面白かった。
追い詰められた保利先生のバックに流れる吹奏楽の練習音は、不協和音のようでものすごく不安にさせられる。
一方、その音を出している湊と校長先生は、初めて楽器で音を出す嬉しさにあふれている。
不穏でしかなかった校長先生も、教育者としていい面があるのだとわかる。
このあと、湊は吹奏楽を本気で始めたりするのかもしれない。

本当に、1つの出来事に対して、切り取り方が違うと見え方が全然ちがってくる怖さをひたすらに感じさせる映画でした。
言葉のやり取りと思い込みの怖さも。

あと、何度も同じ出来事をループして見せるので時系列が複雑でした。
結局これはどうだったんだ? と思うことがいくつかありましたが、それは大きな問題じゃないのかも。
正解を見せず、見た人に考えさせて委ねる感じの純文学的作品だなと思いました。

脚本はもちろん、演出も役者さんたちも音楽も素晴らしかった。
子役はふたりとも、よくこんな難しい心情を表現するな、と感心しました。

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この記事を書いた人

つたちこ

フリーランスのwebディレクター。基本方針は、健康的においしい食べ物とお酒を楽しむこと。できるだけご機嫌で生きていきたい。
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