【読書メモ】「ペリリュー 楽園のゲルニカ」

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こんにちは、つたちこです。
非常に心を動かされた漫画を読みました。
ペリリュー 楽園のゲルニカ」。戦争体験をつづったマンガです。

2016年から2021年まで連載されていて、全11巻で完結済み。
『このマンガがすごい!2022』オトコ編9位でした。

参考:【2021.12.7更新】『このマンガがすごい!2022』今年のランキングTOP10を大公開!!【公式発表】 | このマンガがすごい!WEB

以前から存在は知っていたのですが、読み始めたのはここ半月ほどです。
読んでる最中に「このマンガがすごい!」の発表があり、納得でした。

「ペリリュー」あらすじ
1944年、夏。太平洋戦争末期のペリリュー島に、漫画家志望の兵士、田丸がいた。サンゴ礁の海に囲まれ、熱帯の豊かな海に覆われた小さな「楽園」。そこは、日米あわせて約5万人の兵士が殺し合う現場になった。襲い掛かる米軍の精鋭4万。迎え撃つは「徹底持久」を命じられた日本軍守備隊1万。祖国から遠く離れた小さな島で、彼らは何のために戦い、何を思い生きたのか。

武田一義さんが語る漫画「ペリリュー」 3頭身キャラで描く理由|好書好日

「ペリリュー」でたくさん描かれるのは、普通の人たち。
職業軍人は上官たち数人で、あとは有象無象の普通の人が召集令状で集められてる。
私でも知っている、「赤紙」で集められた人たちなんだと思う。

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なんとなく「戦争で戦った人」というフィルターで、みんなが劇的に戦っていたと思ってしまってました。

でも「ペリリュー」に出てくる人は、本当に普通の人たち。
みんな若い。20~28歳くらいがほとんど。
主人公の田丸は漫画や絵を描くのが得意で好きで、体力はないし、力も弱い。
敵があらわれれば、震えるし怖い。
それでも指示に従って、戦う。

南の島で戦う戦争って、泥まみれで常に飢餓状態で……みたいなイメージがありました。
もちろんそういうシーンもありましたが、そこそこ食べ物もあってわいわいと生活するシーンも出てきます。

その、ちょっとほのぼのしたシーンの直後に、死に直結する出来事が起こるんですよ。
生と死のあまりの近さに、ぞわぞわと震えが来ます。
かわいらしい三等身の絵柄なのに、ものすごく恐ろしい。

主人公の田丸は、何度も何度もすぐ隣に死があって、本当にちょっとした差で生き残ります。
こんなことで? と思うような死のシーンもあります。
生き残った人と死んでしまった人に個人差なんてなくて、わずかな運でしかなかったのかもしれない。
(ただ、田丸は観察力がすごいので、それが生き残れた一因ではあると思いました)

戦争マンガはたくさんあって、私もいくつか読んでいますが、どれとも違う。
「はだしのゲン」は劇画で被爆者の悲惨さを伝えたし、「この世界の片隅で」はやわらかい絵柄で日常生活の中にじわじわと入り込む戦争を描いた。
「特攻の島」も読みました。
これは「集められて戦争で戦う人」の漫画、という意味では系列は似ているけど、戦いへの心構えが「ペリリュー」とは全然違う。(でも絵を描く人、っていう共通項がありますね)

「ペリリュー」はパラオ諸島の中の一つの島の名前で、「玉砕を禁じられた島」だったそうです。
出来る限り長く、米兵と戦って時間を稼ぐことを命じられていた。
それでも戦争終盤でぺリリュー本部は玉砕するのですが、その情報も島内にいる末端まではなかなか届かない。
生き残った人たちは、自分たちだけでも生きて、アメリカと戦い続けることが使命になってしまった。

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結果として、日本が全面降伏した終戦後もずっとそのことを知らず、潜伏して戦い続けて、本当なら死ななくていい人たちまで死んでしまった。
私たち読者は歴史を知っているから、「なんで?」「もうやめて」「なんのために」と何度も思ってしまうのだけど、それは神の視点でみているからで、当事者はそんなことわからない。
正確な情報が得られないって、なんて恐ろしい。

それを指揮した人の後悔、懺悔の気持ちがとても痛い。
自分だって、指示されたことを忠実に守っていただけなのに。

ペリリューでは、1万人の日本兵と、4万人の米兵が戦ったそうです。
つい固まりの「1万」「4万」で見てしまいがちですが、そこにいたのは個人の集まりで、それぞれが別々のことを考えながら戦争に参加させられていたのだと、忘れないようにしたい。

あと、日本兵側も、米兵に対してひどいことをしているシーンもあります。
そのあたりもきちんと描かれているのが、とてもフラットな視点だな、とも思いました。

最終巻は、日本へ帰還後が描かれます。
10巻が終わった時「この後、何が必要?」と思ったのですが、大間違いでした。

それぞれが過ごす戦後、自分がやったことに対する思い、様々な遺族。
こっちにも、塊じゃない、ひとりひとりの事情があるのだな。
最後まで、まったくダレずに、非常に納得感のあるラストシーンでした。

当初、絵柄でちょっと敬遠していたのが、本当にもったいなかった。
(戦争もので3等身…? と思ってた)
非常に熱い名作だと思います。

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この記事を書いた人

つたちこ

フリーランスのwebディレクター。基本方針は、健康的においしい食べ物とお酒を楽しむこと。できるだけご機嫌で生きていきたい。
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